2012年10月31日
自分が自分であることを確認できるのは記憶があるからである。
今、朝食を食べている自分。
ほんの1分前にはコーヒーを淹れトーストを焼き、朝ご飯の支度をしていた自分。
もう少し前には、夜ごはんのためのお米を洗い、お釜をセットしていた自分。
そのもう少し前には、洗濯機をまわした自分。
人間は記憶があるからこそ、時間の流れを知覚できる。
「今」が「少し前」とは異なることを認識できる。
もし、記憶がなくなったら私の中には「今」しかなくなってしまう。
記憶障害患者にとっては、永遠に「今」が続くのだ。
「おしっこ!」とアルツハイマーのAさん。
Aさんは歩けないので、室内のおりたたみの車いすを広げて準備する。
Aさんを、ソファーから車いすに移動しようと体をかかえると、
「何するの!」
「おしっこなんて言わないよ!!」と怒ってしまう。
Aさんは娘さんと暮らしているが、毎朝娘さんが仕事に出てしまうと、
夜7時には帰ってくると説明しても、今、目の前に娘さんが居ないので、
「みんな死んじゃったの?」「何年も娘に会っていない」となる。
そしてその質問は何度も何度もエンドレスで繰り返し続く。
娘さんが帰ってきて顔をあわせた瞬間は、Aさん「お帰り~」とニコニコ。
顔を見れば娘さんだとすぐわかる。
娘さんが夕食の準備で台所にいると、Aさんの座っているところからは見えない。
すると「誰もいないのー?」と不安になって大声で叫ぶ。
こんな風に、記憶がないと「私」という人間は成立しない。
頭の中の記憶、脳の不思議を考える。